イベント ニュース

極私的マッチレポート チェンマイユナイテッド・ホーム最終戦(2023-04-22)

【お詫びと訂正】ご本人に確認したところ、ゴールは右足ではなく左足でした。(2023/4/26)詳しくは記事下の方までご覧ください。

(注)本投稿は、マッチレポートとは名ばかりの作文です。ご了承ください。

タイサッカーリーグ2部、チェンマイユナイテッド2022〜2023シーズン・ホーム最終戦を観戦

2023年4月22日(土)。例年以上にPM2.5の立ち込める大気汚染のチェンマイ。筆者は3月終わりに一週間だけ、しかし5年ぶりに日本に帰り、戻ってきた。その頃には大気汚染がピークに達していて、生まれて初めて空気の悪さで気分が悪くなり、アレルギーのようにくしゃみや咳が止まらなくなるという経験をした。

そして、ダービー盛り上げ企画の際に同じく取材させていただいた、チェンマイユナイテッドの小野悠斗選手。

2023年3月1日・最初の取材日

小野選手を最初に取材したのは2023年3月1日、行きつけのカフェは定休日だったものの、お店のご厚意で貸切状態にしていただき、1時間以上のロングインタビューをさせていただいた。

そこには奥様も、産まれてまだ数ヶ月のお嬢さんも同席していた。インタビューには、お嬢さんの可愛い泣き声が入っている。小野選手は「明日2人とも日本に帰るんですよ」と。その頃酷くなりつつあった大気汚染が原因だった。それが懸命な判断だったことは、その後の大気汚染の様子を見れば火を見るよりも明らかだった。ただ、小野選手の心中を考えると、それがいかに苦渋の決断だったかは想像できないほどだ。

チェンマイの大気汚染・メンタル面への影響

煙立ち込める中、練習をすると気分が悪くなり、メンタルも下がる。小野選手のツイートにはその苦しみが溢れていた。「切実に帰国したい。」そんな思いを胸に、プレーを続けなければならないプロサッカー選手の宿命。所属チーム・チェンマイユナイテッドも調子が上がらず、プレーオフ圏内からズルズルと下がっていく。

一方、チェンマイFCも勝てないゲームが続いていた。先にブレイクスルーしたのが平山選手だった。

チェンマイFC所属の快速FW平山勇太選手。彼は入団当初に怪我をしてレギュラーを外れていた。小野選手は同じチェンマイに住むサッカー選手の先輩として励まし、陰で支えた。
その甲斐あってか、平山選手は4月初めにご家族が来ている目の前で大活躍。初ゴール、アシストも決めた。筆者はチェンマイダービー盛り上げ企画で取材した時に感じた、純粋にボールを追いかける彼の姿勢がこれ以上ない形で報われたことにホッとしたと同時に、体調不良でチェンマイでのホーム戦にも関わらず観に行けなかったことがたまらなく悔しかった。

平山勇太選手の純粋さが垣間見えるインタビュー・小野悠斗選手との関係についても言及

平山選手の活躍に家族の力があったことは間違いないだろう。サッカーもメンタルのスポーツなのだから。
一方、小野選手の苦闘は、孤独との戦いでもあった。「帰国したい」という言葉の裏にはきっと、生まれたばかりの我が子と妻への溢れる想いもあったではないか。ヒーローも、一人のお父さんなのだから。

チェンマイでサッカー交流行事の計画

愛する家族と離れ、大気汚染の中プレーを続ける小野選手。そんな中でも3月にインタビューで語っていた夢、ここチェンマイでの交流活動の実現に向け、平山選手とチェンマイFCの加藤光男コーチと3人で、チェンマイ日本人会の広報、フットサルのリーダーとのミーティングは行われた。チェンマイ情報ステーションという看板を背負う筆者もそこに関わらせていただいている。名前負けはしたくない、チェンマイ在住日本人の一人として、ここチェンマイのためになる活動を実現したい。それが子供達の未来のためになる活動ならなおさらのこと。

交流会のヒントとなったのが、小野悠斗選手が地元横須賀で行っている「ONO Football Clinic」。かつてライバルで口をほとんど聞くこともなかったという弟の小野裕二選手と2人で立ち上げたプロジェクトだ。

「横須賀の子供達が世界に羽ばたくために」と純粋な目で真っ直ぐカメラを見つめながら語る小野悠斗選手。私の中の何かが共鳴した。

カリスマ性の継承

矢沢永吉さんが好きだという小野選手。矢沢永吉さんがデビュー前にバンド活動をしていたヨコハマ。横須賀もよく似た空気感だったであろうことは、インタビューで語られた「ヤンキーの兄ちゃんたちが放課後グラウンドを占領するためにサッカー対決を毎日挑んできた」というエピソードからも伺い知れた。

第二次ベビーブーム世代の私は、直接の矢沢世代ではない。その一つ下のBOØWY世代である。バンドブームに乗っかって、ドラムスティックを握り、必死で8ビートを刻んで運命を切り開いた高校時代。僕らにとってのヤザワは「氷室京介」だった。危険な目をして「ステージに上がってくんな!」と凄みつつも、「狭いハコだ、怪我すんなよ」と客を気遣う漢は、YAZAWAの遺伝子を確かに宿していた。

矢沢永吉、氷室京介、小野悠斗。この3人に共通するものは何か。それは「男が惚れる男たち」だということだ。ハードボイルドの世界、任侠の世界、義理と人情の世界。古いと言われようが前世紀の遺産と言われようが、確かにそのスピリット、今流行りのヒップホップで言うところの「バイブス」は存在する。

小野悠斗は、その脈々と流れる男たちのバイブスを確かに感じさせる。

情報を伝えたい衝動と使命感

タイの仏教正月「ソンクラーン」。4月の13〜15の三日間、タイの人々は日々の暮らしを忘れ、大人も子供も水鉄砲やホースなどを使い、道ゆく人々や車・バイク乗りに向けて水を掛け合う。小野選手も、その中で心身ともにリフレッシュできた様子だった。

一方、筆者はその三日間仕事だった。コロナ禍で仕事のオンライン化が進んだおかげだった。
ソンクラーン明けに代休を取り、疲れた心と体を癒しながらも、必ずやらねばならぬことがあった。「小野悠斗」という漢のインタビュー記事の完成だ。

あの真摯な姿勢で、その真っ直ぐな思いを静かに、だが情熱的にカメラに向かって語ってくれた小野悠斗。この新しい矢沢永吉・氷室京介の特集記事を作らなければならない。いや、作りたい。人々に伝えたい。彼がチェンマイで何を考え、何を感じ、何を発信したいと思っているか、それを残し伝えることが私の使命。彼が確かにここチェンマイにいた足跡を残し、世界を股にかける彼のライフストーリーの1ページに加えられるよう、貢献したい。

その衝動・使命感が胸を満たした。

3月の時点ですでにある程度文字起こしをしていたことが幸いした。ただ、ノートPCが画面左に常に映り込んでしまっているという致命的なミスを犯していたのが頭痛の種だった。
試行錯誤を重ねた末、その部分に関連写真をはめ込んでPCを隠すというアイデアが降りてきて、何とか解決。丸一日と半分で、記事は完成した。

小野選手にはあとは動画だけという状態でチェックしていただき、「完璧です」との答えをいただいた。震えた。私は彼に完璧な仕事をして返すことができるかもしれない。あともう少し…!

気合いを入れて全ての作業を終えたのは、彼の今シーズンのホーム最終戦の前日だった。翌週に行われるチェンマイでのサッカー交流会の宣伝にも間に合った。

試合前日に記事は完成した

チェンマイユナイテッド・ホーム最終戦

大気汚染の影響による咳はまだつづいているものの、いくぶん筆者の体調は上向いていた。必ずホーム最終戦には行く。そこに照準を合わせてきた。

そして当日。思わぬ事態が起きていた。チェンマイユナイテッドのホームスタジアムには久しぶりに行くため、昼1時ごろに下見に来ていたが、その時には気配すらなかった雨。午後4時頃には何と雷鳴が響き今にも雨が振り出しそうな空模様だったのだ。

雨は切実に降って欲しい。この空気の汚れを綺麗に落としてくれ。でも、それは今じゃない。神様…。

ホーム最終戦のこの日、チームのユニフォームを着ていれば入場無料という大盤振る舞い。だが席は屋根付きか屋根無しか選ばなければならなかった。屋根付きの席は一般席で、屋根無しはホームのサポーター席。熱い応援、太鼓のリズムを感じられる席だ。かつてBOØWYでビートの洗礼を浴びた自分にはとても魅力的。だが結局、同じく観戦予定だった日本人会広報の方と話し合い、安全策として屋根付きの席に決定。
少し選手と距離があるような感じではあるが、仕方ない。キックオフの頃まで、遠くで雷が鳴り、小雨が風に乗りスタンドまで降り注ぐ状態が続いていた。

いよいよキックオフ。小野選手は少し見えづらい。なぜなら筆者の席はスタジアムの南側、チェンマイユナイテッドは反対側の北に向かって攻める陣取り。
珍しく前線に近いポジションを取る小野選手。試合直後に「ミスが多かった」という前半の小野選手のプレーは、はっきり見えずじまいだった。

ただ、相手は下位の「クラビ」。いくつかピンチはあったものの、GKをはじめとするチェンマイユナイテッドのDF陣はしっかり対応できていた。
雨は結局すぐに止み、心配された雷も遠くで時々光や音を放つだけだった。小雨のおかげでいくぶん湿気を含んだ大気は少しまろやかみを感じさせ、ここ1ヶ月以上苦しんだ選手たちを優しくホームらしく包んでくれるようだった。

ホームには神様がいた。それは後半、明らかになった。

神はホームに、天使はピッチにいた

そして後半。小野選手は筆者たちの陣取る南側、相手ゴール側に攻め込んでくる。後半開始早々の50分、パスがつながり得点、チェンマイユナイテッドが1-0とリード!
それほどサポーターは多くないが、それでもスタンドは大いに沸いた。

ユナイテッドはますます勢いを増し、小野選手も巧みなボールキープで中盤を安定させ、自らのポジショニングと前線に生み出したスペースに効果的なパスを供給し続ける。運動量も多く、相手DFのギャップスペースに的確に入り込む動きも続けていた。

そして、その瞬間が訪れた。

53分。前線でのチャンス。味方が放ったシュートのこぼれ球に誰よりも早く触れられる位置取りをしていた小野悠斗。
10代の頃からメキシコで道場破りでチームとの契約を勝ち取り、タイでは契約直前にチームが消滅するという憂き目に遭いながらも実力でオファーを獲得してきた彼にとって、このこぼれ球は神様からのプレゼント・パス。
子供達の未来のために汗を流し、神に祝福されたその右足左足は、恐ろしいほど冷静に、その卓越したテクニックの源である基本練習に裏打ちされた自然な蹴り方で、この上なく丁寧にボールをゴールに流し込んだ。

まるでピッチ上の天使のように。

(訂正)ゴールしたのは右足ではなく、左足でした。スタンドからは、左サイドからペナルティエリアにあっという間に侵入合わせたので、右足かと勘違いしました。小野選手の利き足は左足。それを頭に入れていなかった筆者のミスです。お詫びと共に訂正いたします。

Original Photo from Chiangmai United Facebook Page / arranged by Chiangmai Information Station
Original Photo from Chiangmai United Facebook Page

スタンドは爆発した。

その中心近くに間違いなく筆者がいた。サポーター席で鳴らそうと思っていたハンドカホンを叩きながら「オーノユート」コール。周りも笑いながら一緒に声を出し、手を叩き、この誰が観てもチームで随一のプレーをしている日本人ミッドフィルダーのゴールを心から祝った。

我に返った筆者、クルッと後ろを向き、タイ人や欧米人のみなさんに向けて帽子を取り、お辞儀。皆暖かくこの痛い日本人のアラフィフおじさんを祝福してくれた。本当にありがとう。

ヒーローも人間だった

その後も小野選手は攻守に大活躍。ピンチの芽を摘み、チャンスと見るや前線に飛び出し、再び後ろ走りで中盤に戻ったかと思うと、広い視野でサイドのスペースやゴール前に効果的かつメッセージ性を感じるパスを出していく。身振り手振りで休む間もなく仲間に指示を出し、ボールが外に出ると味方に近づき何やら声をかける。

だが、彼も人間。ボールが外に出ると水を含む頻度がだんだん増えてきた。

正確な時間は後でホンモノのマッチレポートで確認してもらいたいが、確か80分ごろ…右サイド中盤に位置した小野選手から、同じ右サイドの前線FW前のスペースに、「走り込んでクロス!」というメッセージのこもった極上のパスが供給された。直後、小野選手は少し顔をしかめて、足を気にするような仕草をした。

結局ボールはゴールに結び付かず、小野選手の様子を見てすぐピッチサイドに準備されていた24番の選手と交代。スタンドには「オノ!」コールと共に盛大な拍手が鳴り響いた。

試合はその後少しピンチを迎えながらもユナイテッドがクリーンシートを達成。ホーム最終戦を2-0の快勝で終えた。

戦い終えて日が暮れて

試合後、小野選手はホームスタンドのサポーターたちに挨拶。そして一般席の我々のところにも律儀に来てくれた。欧米人の若いファンからも、「Yuto Onoはスペシャルだ」とのリアルな感想が聞こえた。

最後、帰路に着く寸前の小野選手をスタジアムの外で声をかけさせていただき、1分間のインタビューを撮影。個人的にも記念撮影に応じていただけた。お疲れのところ、対応してくれた小野選手の強さと優しさが身に沁みた。

強く優しい、我らがヒーローの小野悠斗選手。「(点を取った場面で)ラッキーでした。でもあそこにいることが大事」「今日は前半はミスがあったので50点」と、謙虚さと自信とをきちんと両立させたバランスの良い人格が、彼をヒーローたらしめているのだ。

神はサイコロを振らない

長々と私的マッチレポートを書いてみたが、いくら書いても伝えられないことがある。

自分が取材して思いを込めて記事にした選手が、ゴールと勝利という最高の結果を出した、その場面にいられたこと。この最高の喜びは、筆者以外の誰も味わえない。

このレポートを読んだ方。あなたも自分の気持ちを込めて、魂をのせて誰かのために精一杯のことをやってみてほしい。誰かのためにやったこと、それはいつか神様の裁量で、あなたに必然として返ってくる。

小野選手の目の前にこぼれてきたボールのように。

筆者の心に咲いた歓喜の大輪の花のように。

Football is life.

筆者・チェンマイ情報ステーション 中の人(ただのサッカーファン)より

さあ一緒に、夢の続きを見よう!

2023年4月26日(水)チェンマイで最初のサッカー交流会を開催

-イベント, ニュース
-, ,